名古屋高等裁判所 昭和25年(ネ)210号 判決
控訴人は「原判決はこれを取消す。岐阜県加茂郡下麻生町字中麻生道上千五百六十五番地畑四反五畝一歩、同町字塞の神千五百六十六番の一畑九畝二十九歩の内一畝二十六歩、同所同番の四田十九歩の買収計画について控訴人がなした訴願に対し被控訴人が昭和二十五年一月三十日なした裁決はこれを取消す。従つて岐阜県加茂郡下麻生町農地委員会が右土地につきなした買収計画もこれを取消す。訴訟費用は第一、二審共被控訴人の負担とする。との判決を求め、被控訴代理人は主文同旨の判決を求めた。
当事者双方の事実上の主張は控訴において、被控訴人より昭和二十五年二月十三日送達を受けた裁決書謄本には被控訴委員会の捺印及び契印を欠いていた。なお右裁決に対する出訴期間は上麻生村農地委員会事務書記田口良佐から二ケ月であると教えられたので控訴人はこれを信じていたのである。従つて本訴提起が期間経過後のものであるとしても行政事件特例法第五条第三項但書の規定によつて本訴提起は適法である。と述べ、被控訴代理人において控訴人に送達した裁決書謄本に被控訴委員会の捺印及び契印がなかつた事実はこれを認める。と述べた外原判決摘示事実と同一であるからこれを引用する。(立証省略)
三、理 由
控訴人がその主張の農地買収計画に対し岐阜県加茂郡下麻生町農地委員会に対し異議の申立をして却下せられ、これに対し被控訴委員会に訴願をしたところ被控訴委員会は棄却の裁決をしたこと並に被控訴委員会の右裁決書の謄本が昭和二十五年二月十三日控訴人に送達せられたが右謄本には被控訴委員会の捺印及び契印がなかつたことは当事者間に争がない。
ところで自作農創設特別措置法並にその附属法令には裁決書謄本の形式について規定するところがないから、裁決庁が裁決書の原本に基いて作成したものと見られる限りたとえ裁決庁の捺印並に契印を欠いていたとしても裁決書の謄本として有効であると解するを相当とする。而して本件において右謄本が裁決庁たる被控訴委員会によつて裁決書の原本に基いて作成せられたとの点については争のないところであるから本謄本は有効であつて控訴人はその送達があつた昭和二十五年二月十三日右裁決の処分を知つたというべきである。そうすると控訴人は前記措置法第四十七条の二に従つて同日から一箇月内に本訴を提起しなければならないのに拘らず本訴の提起せられたのは同年三月三十一日であることが記録上明らかであるから右は出訴期間経過後の提訴であつて不適法といわざるをえない。
なお控訴人は正当な事由によつて期間の遵守ができなかつたものであるから行政事件特例法第五条第三項但書の規定によつて本訴は適法であるというが出訴期間についての自作農創設特別措置法第四十七条の二の規定は行政事件特例法のそれを排除するものと解すべきであるから右主張も理由がない。
従つて控訴人の本訴を却下した原判決は相当であつて控訴はその理由がないからこれを棄却すべきものと認め訴訟費用につき民事訴訟法第八十九条、第九十五条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 中島奨 茶谷勇吉 白木伸)
原審判決の主文および事実
一、主 文
原告の請求を却下する。
訴訟費用は原告の負担する。
二、事 実
原告訴訟代理人は、「岐阜県加茂郡下麻生町農地委員会が同町字中麻生道上千五百六十五番畑四反五畝一歩の内十四歩、同町字塞の神千五百六十六番の一畑九畝二十九歩の内一畝二十六歩、同所同番の四田十九歩について自作農創設特別措置法第三条第一項によりなした買収計画はこれを取消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求め、その請求の原因として、岐阜県加茂郡下麻生町農地委員会は原告の所有する右農地について自作農創設特別措置法により買収計画をなしたので、原告は右農地委員会に異議申立をなしたが却下され、更に被告農地委員会に訴願をしたところ、昭和二十五年二月一日右訴願は棄却せられ同月十三日その裁決書の謄本の送達を受けた。ところが本件土地は昭和十三年頃原告が訴外岩田束吉に賃貸したものであるが、原告において自作の必要が生じたので、昭和十九年に右賃貸借契約を解除して岩田から右土地の返還を受け、爾後原告において耕作していたのであるから、右土地につき上麻生町農地委員会が自作農創設特別措置法第三条第一項第一号により買収計画をなしたのは違法である。よつて右買収計画の取消を求めるために本訴に及んだ次第であると述べ、被告の出訴期間経過の抗弁に対して、昭和二十五年二月十三日被告農地委員会から送達を受けた訴願棄却の裁決書謄本には被告農地委員会の捺印がなかつたので右書面は謄本たるの効力なく、原告は同年三月十日被告農地委員会事務局に出頭して右書面に被告農地委員会の捺印を受けたので之により右書面は裁決書謄本たるの効力を生じ、同日始めて有効な裁決書謄本が被告の許に送達され之により原告は被告農地委員会の訴願棄却の処分を知つたものというべきであるから出訴期間は同日より起算すべきものであり、従つて本訴は適法な出訴期間内に提起されたものであると述べた。(立証省略)
被告指定代理人は、「原告の請求を却下する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求め、本案前の抗弁として、被告庁は昭和二十五年一月三十日岐阜県加茂郡下麻生町農地委員会のなした農地買収計画は適法且正当であるとして、原告の右買収計画に対する訴願を棄却し、その裁決書謄本を原告に送付し、原告は昭和二十五年二月十三日これを受領したから、右裁決を不服とする本訴は自作農創設特別措置法第四十七条の二第一項本文の規定により右二月十三日から一箇月以内に提起しなければならないのであるが、原告が本訴を提起したのは訴状に明かな通り同年三月三十一日であつて既に右出訴期間を経過しているから本訴請求は不適法として却下されるべきものであると述べ、尚右被告に送付した裁決書謄本に当初捺印のなかつたことは認めると答え本案につき答弁として、原告の主張事実中、本件土地が昭和十三年頃原告が訴外岩田束吉に賃貸したものであることは認めるが、原告が昭和十九年に右賃貸借契約を解除して岩田束吉から本件土地の返還を受けたことは否認する。原告の住所は岐阜県武儀郡上麻生村にあり、本件農地が同県加茂郡下麻生町にあつて、小作地であるから、右農地が自作農創設特別措置法第三条第一項第一号に該当することは明かであり、下麻生町農地委員会が右規定に基いて本件農地につき買収計画をなしたのは適法な処分であるから、被告庁は原告の訴願を棄却したものであつて何等違法な処分ではないと述べた。(立証省略)